ディランの釈明


ごく簡単に



ミュージケアーズのスピーチの直後からディランが、マール・ハガードとトム・T・ホールを批難したという報道でメディアが騒いだ。
Who was on the business end of Dylan disses? (USA Today)

問題の箇所は
マール・ハガードは私の曲をあまり気にも留めなかった。そう面と向かって言われたことはないけれど、分かるんだ。バック・オーウェンズは気に留めてくれたね。私の初期の曲をいくつか録音してくれたから。マール・ハガードは…「ママ・トライド」、「ザ・ボトル・レット・ミー・ダウン」、「悲しき逃亡者 (I’m a Lonesome Fugitive)」を歌っていたけれど、ウェイロン・ジェニングスが「ザ・ボトル・レット・ミー・ダウン」を歌うのは想像できないな。
SME Japan


時代はいつでも変わるもの。本当だ。次にやってくる予期せぬものへの準備を常にしておかなければならない。ずっと昔、ナッシュヴィルでアルバムを作っていた頃、トム・T・ホール(訳注:カントリー・ミュージックの作曲家)のインタビューを読んだことがある。彼は最近の曲について文句を言っていた。意味が分からないってね。

いいかい、トムは当時、ナッシュヴィルで最も卓越したソングライターのひとりだったんだ。沢山の人が、彼自身も、彼の曲を録音していた。でも彼はジェームズ・テイラーの「カントリー・ロード」という曲にいちゃもんをつけていたんだ。「ジェームズはカントリー・ロード(田舎道)のことなど一言も歌っていない。田舎道で感じることを歌っているだけだ。私には理解できない」ってね。

いいかい、トムが素晴らしいソングライターだったという人もいる。それは私も疑いもしない。彼がそのインタビューを受けていたとき、私はラジオで彼の曲を聴いていたくらいだから。

「アイ・ラヴ」という曲だった。レコーディング・スタジオで聴いていたその曲は、彼が愛するものについての歌だった。人と繋がろうとする、ごく普通の曲だったね。彼も私も同じなんだなと思わせるような曲だった。みんな同じものが大好きで、みんな同じ立場だって。トムはアヒルの赤ちゃんや、ゆっくり走る列車や雨が大好きだ。古いピックアップ・トラックや、田舎の小川が好きだ。夢のない睡眠。グラスに入ったバーボン。カップに入ったコーヒー。つる付きトマト、それからタマネギも。

いいか、聴いてくれ、私はまたソングライターを糾弾する(ディスる)つもりはない。悪い曲だというつもりもないけれど、ちょっと作りこみすぎた曲かも知れないと言っているんだ。それでもその曲はトップ10入りを果たした。トムとその他数人のソングライターで、ナッシュヴィルのシーンは独占されていたんだ。自分の曲をトップ10入りさせたかったら、彼らに頼るしかなかった。
SME Japan

これに対してマール・ハガードはすぐさま、ツイッターとフェイスブックを通してこう返してきた…1964年から君の曲を賞賛しているよ…




ディラン側も騒ぎが大きくなってきたことに警戒したのかローリング・ストーン誌に、ディラン自身のノートを元にしたスピーチの写しを公開した。スピーチの全文は既にL.A.Timesなどが公開していたが、ローリング・ストーン版は細部が微妙に異なっていた。以下はマール・ハガードの該当部分だ。上がL.A.Times、下がローリング・ストーン。

L.A.Times
Merle Haggard didn’t even think much of my songs. I know he didn’t. He didn’t say that to me, but I know way back when he didn’t. Buck Owens did, and he recorded some of my early songs. ‘Together Again,’ that’s Buck Owens. And that trumps anything else out of Bakersfield. Buck Owens or Merle Haggard? If you had to have somebody’s blessing, you can figure it out.

Rolling Stone
Merle Haggard didn’t think much of my songs, but Buck Owens did, and Buck even recorded some of my early songs. Now I admire Merle - “Mama Tried,” “Tonight The Bottle Let Me Down,” “I’m a Lonesome Fugitive.” I understand all that but I can’t imagine Waylon Jennings singing “The Bottle Let Me Down.” I love Merle but he’s not Buck. Buck Owens wrote “Together Again” and that song trumps anything that ever came out of Bakersfield. Buck Owens and Merle Haggard? If you have to have somebody’s blessing - you figure it out. What I’m saying here is that my songs seem to divide people. Even people in the music community.


ローリング・ストーン版には、
I know he didn’t. He didn’t say that to me, but I know way back when he didn’t.
が無いが
I love Merle but he’s not Buck.
というのが入ってたりする。


実際ディランのスピーチがどちらだったのかわからない。憶測を言わせて頂ければ、L.A.Times版は、恐らく実際のスピーチの文字起こしではないかと思う。記者が自分で録音した物らしく、拍手等で一部聞き取りにくい所があったと言っている。ローリング・ストーン版はノートからだとは言ってるが、これをそっくりそのままディランが実際に話したとは言っていない。


そして昨日、ビル・フラナガンとの会話という形で、ディラン自身が説明したものをbobdylan.comで公開した
ミュージケアーズでのスピーチの後のインタビューでディラン語る。(SME Japan)
※日本語訳

そこでディランは、
No, not at all, I wasn’t dissing Merle, not the Merle I know.
とマールをディスってないと明確に発言した。

一方、トム・T・ホールは、事務所のアシスタントが「関心を持って頂いた事に感謝していましたが、他に何もコメントはありませんでした」と本人のコメントが一切無かった事を伝えた

トム・T・ホールの該当部分…ローリング・ストーン誌もL.A.Timesもほとんど変わりがなかった。つまり書き換えていない…ということなのだろう。そして、フラナガンとの会話の中でもトム・T・ホールへの言及は一切なかった。

トムは、アヒルやらコーヒーやらタマネギやら何でもかんでも好きって、ちょっとオーヴァーに言い過ぎ、やり過ぎとちゃうか…(笑)。まぁディランはこの曲が嫌いなのだろう。




ところで全く話題にもなっていないが、ディランが、現在の著作権に対する風潮に反論していると捉えた人もいた。
Bob Dylan Makes the Case Against Today's Copyright Climate (Reason.com)

これには、本家大本が黙っていなかった、Reasonは判断を誤っていると反論記事を書いた。
Why Copyright Has Helped Bob Dylan (Copyright Alliance)




当日、これをナマで見れた人は本当に興奮しただろう。ペロシも喜んでいる。ディラン流のちょっと屈折したサーヴィスだったのだろうか(笑)。そしてこの賞の受賞もうれしかったのだろう。それにしても二度と無いような事が続いているな…



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